あなたは、カフェやおしゃれな場所で、ゆったりとしたギターの音色を耳にした機会があるはず。
それが、ブラジルで1950年代後半に生まれた音楽ジャンル「ボサノバ」です。
ポルトガル語で「新しいセンス」を意味するボサノバは、なぜ聴く人をリラックスさせ、洗練された気持ちになるのでしょうか?
この記事では、ボサノバの持つ魅力的な特徴を、リズム・ハーモニー・感情表現の3点から掘り下げて解説します。
Bossa Nova 1 – in acoustic sound –
ボサノバとは? その定義と3つの核
ボサノバの最大の特徴は、「サンバのリズムをベースに、ジャズの洗練された響きを取り入れた音楽」という点です。
優雅さ、都会的な雰囲気、そして心地よい安らぎという魅力は、以下の3つの核となる要素が組み合わされることで生まれています。
- リズムの核:ギター奏法「バチーダ」
- ハーモニーの核:おしゃれな「テンションコード」
- 表現の核:切ない感情「サウダージ」
ボサノバ音楽の主な特徴を3選紹介

ここからは、ボサノバ音楽の主な特徴を3選紹介します。ボサノバが他の音楽と決定的に違う点が理解できます。
特徴①:リズムの核「バチーダ」が生む軽やかさ
ボサノバのグルーヴ(ノリ)は、アコースティックギターの革新的な奏法「バチーダ」によって生まれます。
バチーダは、元々激しく踊るためのサンバのリズムを、静かにシンプルなギター1本で表現し直したものです。
従来の賑やかなサンバとは異なり、ボサノバはこの奏法で抑制された美しさを表現することを追求しました。
バチーダでは、リズムの拍をあえてわずかに早く弾いたり(アンティシペーション)、遅らせたりすることで、「間」を生み出します。
この「ずれ」が、聴き手に軽やかで心地よい浮遊感として伝わり、ボサノバならではのリラックスしたノリを作り出しているのです。
このようにバチーダは、サンバのエネルギーを洗練された形に昇華させ、ボサノバ特有の優雅な軽やかさを決定づけている、最も重要な音楽的特徴といえます。
特徴②:ハーモニーが生む「おしゃれなテンションコード」
ボサノバでは、基本の和音に「テンションコード」という特別な音が付け加えられます。
テンションコードとは、和音に「9th(ナインス)」などの音を付け足すことで、響きをおしゃれにする技法のことです。
この「スパイス」によって、楽曲全体が優雅で都会的な響きになります。
このおしゃれな響きが作り出す優雅な雰囲気を、以下の楽曲で聴いてみてください。
メロディ内で流れる和音に注目すると、心地よい響きが感じられるはずです。
こちらは、テンションコードを多用した美しいオーケストラアレンジが、最も洗練された形で楽しめるアルバム「波(Wave)」です。
特徴③:表現の核心「サウダージ」が宿る歌声
ボサノバのボーカルは、声を張らず囁くように静かに歌われます。ウィスパーボイスとも呼ばれます。
この柔らかな歌声で表現されているのが「サウタージ(Saudade)」という、ブラジル特有の感情です。
サウダージとは簡潔に訳すと、「もう戻らない大切な人や過去を想う、少し切なくて心地よい郷愁の念」のことです。
ボサノバは、このほろ苦い感情を静かな歌声で優しく表現します。
以下の楽曲は、軽やかなリズムと抑制されたムードが表れています。
静かなボーカルが、楽曲にどのような「切ない余韻」を与えているかを感じてみてください。
ボサノバとジャズの決定的な違い
ボサノバはジャズの洗練された和音を取り入れていますが、その目的と根底にある表現方法が根本的に異なるため、全く別の音楽ジャンルとして確立しています。
ボサノバは「抑制された静かなロマンス」を追求するのに対し、ジャズは「表現の自由と大胆な即興」を追求しているからです。
この表現の方向性の違いが、リズムと歌唱法の両方に現れています。
具体的な違いは、以下の通りです。
- リズムの違い(一定 vs. 自由): ボサノバは、常に一定で静かな「バチーダ」のリズムをベースにしており、予測可能な安らぎを提供します。一方、ジャズのリズムは、即興で複雑に変化し、自由で大胆な感情を表現します。
- 歌唱法の違い(囁き vs. 即興): ボサノバの歌唱法は、サウダージを伝える親密な囁きが基本で、メロディの崩しはほとんどありません。対してジャズでは、歌詞を超えて音で遊ぶ即興歌唱(スキャット)や、メロディを大胆に崩す歌い方(フェイク)が多用されます。
このように、ボサノバはジャズから技術を借りつつも、それを安らぎと囁きという独自の表現様式に落とし込んでいます。
そのためボサノバは、ジャズとは一線を画した独自の音楽的地位を確立していると言えます。
ボサノバ音楽を築いた「3人の神様」

ボサノバが世界的なブームとなり、今日まで愛され続けているのは、精神的・音楽的・文学的な基礎を築いた「3人の神様」と称される偉大なアーティスト達がいたからです。
彼らは、それぞれ欠かせない役割を分担することで、単なる流行歌ではない、洗練された芸術音楽としてのボサノバを完成させました。
「3人の神様」とは以下の通りです。
- アントニオ・カルロス・ジョビン:ボサノバの「心臓」として、テンションコードを駆使した優雅な楽曲のほとんどを作曲・編曲。
- ジョアン・ジルベルト:ボサノバの「魂」として、バチーダと呼ばれる独特のギター奏法と、ささやくような歌唱法を確立。
- ヴィニシウス・ヂ・モラエス:ボサノバの「詩人」として、サウダージやリオデジャネイロの風景を歌詞に落とし込み、知的でロマンチックな世界観を与えた。
このように、作曲・演奏・作詞という三つの才能が一つになることで、ボサノバは時代を超えた普遍的な魅力を手に入れ、その独自性を確立したのです。
ボサノバ音楽が世界で愛される理由|まとめ

ボサノバは、その軽やかさ・洗練された響き・切ない感情によって、時代を超えて世界中で愛され続けている音楽です。
激しいサンバの熱いリズムを抑制的に洗練させ、ジャズの知的なハーモニーという要素で飾り付けた、独自のハイブリッド構造を持っています。
例えば、バチーダのリズム・テンションコードのおしゃれな響き・サウダージという文学的な感情表現が、見事なバランスで融合しています。
この複雑で特徴的な構造こそが、ボサノバの魅力の源泉です。
結果として、ボサノバはあなたの日常に心地よい安らぎや、優雅で都会的なセンスという特別な雰囲気を提供してくれる、唯一無二の音楽ジャンルといえます。
以下は代表曲「イパネマの娘」を収録した、ボサノバを世界的なブームにした歴史的な名盤です。
アルバム一枚で、ジョアン・ジルベルトのバチーダとスタン・ゲッツのジャズの洗練を同時に体験できます。ボサノバ初心者にはおすすめできる一枚です。
興味のある方は是非聴いてみてください♪



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